病名 恋煩い

いらなくなって捨てた傘

貴方へ向けて

もう二度と会えない人が増えていく。

それも、二十代になってから。

 

後になってから気づく、その繰り返し。  

最後は呆気ないものだったりする。

 

またねと言った後とか

あの時した約束とか

これで会うのは最後と尋ねた後とか

既読がつかないままのメッセージとか。

 

他にはちょっとした失恋でそうなったりする。

失恋とさえ呼べない何かでそうなったりもする。

 

彼らはもう二度と喋ることは出来ない。

そして私もやがて彼らに語りたかった言葉を忘れてしまうでしょう。

 

彼は白いキャスターを吸っていた。

私と同じ甘党だった。

アクセサリーが派手でいつもキラキラしていた。

shiroの香水を愛用していた。

忙しいと肌が荒れることに悩んでいた。

 

金髪が良く似合う人だった。

好きな事なら寝ずに行動する人だった。

自分の夢を叶えるために頑張れる人だった。

激務でも仕事の愚痴は言わない人だった。

たまに弱音を吐いてもすぐ謝る人だった。

 

私は唯一彼のその癖が嫌いだった。

 

出会いは飲み会だった。

2回目は私から会いたいと声を掛けた。

 

待ち合わせに遅れて来たのは予想通り。

笑顔が可愛い 話すと面白い 寝顔が綺麗

 

だけど彼は消えた。ツイッターもインスタも、彼のアカウントは予告なく消えた。

LINEも電話も繋がらず、家を訪ねた。引っ越していた。本名で検索しても、彼は行方知れずだった。

 

なにが原因だったのかは、分からない。  

でもそんな日が来る予感は、なんとなくしていた。

 

彼は結局そういう人で、彼にとっての私も結局それだけだった。

そう自分に言い聞かせては

もう何千何万回と彼との記憶の処理に失敗した。

 

貴方と話した内容が。

貴方と交わした約束が。

貴方の匂いが。

私の中から消えてくれない。

 

死別と離別、どちらがつらいのか。

私は未だによく分からない。

 

どこかできっと生きているのに

もう会える望みは薄い。

その方がつらいのか。

 

もう二度と会えないことが

確定している方がつらいのか。

私は未だによく分からない。  

 

でも私はこの生傷を治す気がない。

包帯は巻かないし。

傷薬は塗らないし。

瘡蓋は剥がすし。

病院だって行ってやらない。

絆創膏を貼るのも諦めた。

 

もう二度と会えない貴方への

ほんのささやかな復讐として私は届かない手紙を書き続けようと思う。

 

貴方へ向けて

メッセージを送り続けようと思う。 

 

どうしてあなたがあの日いなくなったのか分からない。

 

しかし私はいまここにいて

あなたの存在を寸分も美化せず

寸分も劣化させることもなく生きている。

 

あなたがどこかで生きていてくれればいいなと思いながら。

 

そして、あなたは私が残した記録ををいつか偶然目にすればいい。

そして、なんとなく苦しくなればいい。

そして、あの日をちょっと思い出せばいい。

 

なんとなくで放棄したあの関係を、

私は待っています。

 

決してあなたのためなんかではなく、ただひたすら私の救われない魂のために。

 

私にとっての仕事とは、そういうものだ。

私は貴方のことを忘れないでしょう。

 

 

これらをみて思い出して欲しい。