病名 恋煩い

いらなくなって捨てた傘

親友と結婚式のお話

「ごめん!ほんっっっとごめん!今起きた!10分だけ待って!ね?お願いします!!!」

 

返事をする間もなく、扉は閉まった。
全裸にタオルケットを巻いていただけだった。

水で濡れているわけでもないのに。

玄関には見慣れた男性物の靴が。

目の焦点が合わなかった。

 

 

 


会社を1ヶ月ほど休む事にした。

携帯は充電切れ。

部屋の電気を点ける事も億劫で

ご飯を食べることすらめんどくさい。

 

インターホンが鳴った。

無視していたが、あまりにもしつこく何度も鳴らされる。

 

うるさいと思いながらもドアを見ると、一番いて欲しくない最愛の人がそこにいた。

 

「ねぇ!私だけど!いるんでしょう!?返事して!」

 

変わらず好きな声だった。貴方が私の部屋の前にいる。

 

「いるのよね!?開けるわよ!」 

 

たまらずベッドまで逃げていた。何故貴方から逃げているのか、自分でもわからない。

 

ズンズンと大きく足音を立てて、私の目の前まできた。私は顔を上げることが出来ない。

 

「、、、久しぶり。私がこの部屋に来たのも久しぶりだね。ちょっと見ない間に痩せたね。ご飯、まともに食べてないでしょ」

 

「何しにきたの」

 

「顔ぐらい上げて話しなさいよ、こっち見て」

 

言葉の端が荒い。貴方が怒っている時はこうなる。そんな事をまだ覚えていた。

 

胸倉を掴まれ、無理やり顔を上げさせられた。貴方と目が合う。怒っていながらも、私の好きな綺麗な瞳だった。

 

「急に連絡こなくなって、こっちが連絡しても無視。貴女の会社に電話したら1ヶ月の休養。なんでそんな事するのよ。なんで私に何も言わないのよ」

 

今にも泣き出しそうな顔をしていた。私は上手く頭を回せなくて、心ない言葉を口にしてしまう。 

 

「うるさい。貴方に関係ないでしょ。私が何しようと、私の勝手よ」

 

頬に衝撃が走った。後からくる痛みが、平手打ちされたのだと知らせてくる。

 

顔を見ると、泣いていた。

優しく抱き締められる。

ああそうだ、貴方は平気でこういう事が出来る良い女だ。そんなの私が一番知っている。

じゃあ、この後に続く言葉は


「ねぇ、私達って小学校で出会ってからずっと一緒だったわよね」


やめて、と口に出せない。


「あんたの事は、私が一番分かってるつもりだわ。でも、人間だから完璧に他人を理解するなんて不可能よ」


私を抱き締める力が強くなる。勝手に涙が出てきた。


「だから、嫌な事や辛い事があったなら話して欲しい。私は貴女の味方だから、貴女を否定する事なんてしないわ。何があっても嫌いになったりしない」


涙だけでなく、嗚咽が漏れ始める。自分の体なのに、止める事が出来ない。


「私は貴女の親友で、貴女は私の親友だもの。辛そうな貴女は抱き締めたくなる」


限界だった。思い切り泣いてしまう。

死にたくなるぐらい辛くて苦しくて、死んでしまおうと本気で思った。

 

でもきっと、私が死んだら、私を抱き締めている貴方は泣いてしまう。

今、優しい顔で力強く私を抱き締めている貴方を悲しませる事は出来そうになかった。

 

もしも貴方が私の想いに気付いたら、きっと私の為に謝るだろう。

ならば、それならば、想いはすれ違っているけれど、そのままで。曲がりようがなく歪みない現実に殺されて泣いているだけの私に、どうか永遠に気付かないで。 

 

肩に顔を埋めて、子供のように泣き喚いた。

 

 

 

 

 

 

 

上手く笑えているのか、分からなくなった。笑顔の作り方が曖昧だ。 

 

顔を見つめる事が多くなった。その度に自分の心に蓋をした。

 時々蓋から溢れ出ると、止められずに泣いてしまう事が何度かあった。

 

 

 

 


結婚式。世界で一番綺麗な花嫁が私に微笑んでいる。私は涙ぐみながら告げる


「本当におめでとう!自分の事みたいに嬉しいよ!」


照れ臭そうに頬を掻いた。少し躊躇ってから、口を開く。


「ありがとう。貴女に祝ってもらえるのが、何よりも嬉しいわ」


綺麗な笑顔だった。私に近づいて来て、耳元で囁く。


「ブーケ、貴女の方に投げてあげるから、ちゃんと受け取ってね」


ウインクしながら、太陽よりも明るく、良い笑顔でそう言った。


私は上手く笑えただろうか。

私はあなたが居なくて上手く生きれるだろうか。

貴方はもう私が居なくても上手く生きれるよね、